とらの徒然

ネコ科のペンギン

ロリ

(21)を遠目で見ると、少し崩して書いた「ロリ」に見える。

おれは今21歳だから、とら(21)。ふむ。

つまり、21歳の人はロリを引き連れて生きているわけだ。

 

 

ところで、ロリとはなんだろう。

急に哲学的な話が始まって読者は混乱しているかもしれない。

だが、これは現代社会において非常に重要、いやあらゆる社会問題の根幹をなすと言っても差し支えない。

 

 

哲学は時に理解されない。

役に立たないことをあれこれ考えて、勝手にわかった気になる。社会に何をもたらすでもなく、机上の空論をこねくり回しては自己満足を生み出すだけ。そんな風に思われがちだ。

過去の歴史を見てもそうだ。

哲学者というのは死後に尊ばれることがほとんどだ。

生きているうちは「なんだあいつ」と白い目で見られる。

これは、人類が哲学を心のどこかで軽視している証拠といえる。

 

 

話を戻そう。

ロリは『ロリータ』の略で、それは1955年に出版されたフランスのウラジーミル・ナボコフによる小説の題名である。

主人公の歴史学者ハンバートは、初恋の相手アナベルを出会って4か月で亡くす。その後結婚を経験するもアナベルを忘れられず、アナベルの面影を持つロリータに近づこうとするが、結局ロリータがハンバートの想いに応えることはなく……という話である。

この小説から"ロリ"や"ロリコン"などの語が広く知れ渡ることになったわけだが、これはそれほど多くの人が関心を示したことの表れでもある。

言い換えれば、みんなロリが大好きなんだ。

 

 

考えてみれば当たり前の話である。

19世紀フランスの著名な画家ポール・ゴーギャンの『我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか』と題した絵画が大衆の目を引いたように、我々は常に自らの根源と行く末を案じてきた。

それは宗教と深く関係し、多くの場合女性は神聖なものとみなされた。

まさに人間は女性から生まれるものだからである。

例えば日本では、女性の肉体を象った「土偶」が大量に発掘されている。

キリスト教では、「聖杯」は女性の子宮を意味する言葉であるし、イスラム教世界では女性は髪と肌を布で覆っている。これはコーランの「美しいものを守る」という教えに基づく。

女性の権利が訴えられる昨今では感じにくくなっているが、太古より女性は崇められてきたのである。

また胎内で胎児が形成されるときも、最初は女性の姿をしているという。残念ながら男性は女性の派生形に過ぎない。

すなわち、人間の根源は女性である。

そして常に根源を求めてきた我々が、女性の雛である"ロリ"に神聖さを感じないわけがないのだ。

我々はロリから来て、我々はロリで、我々はロリへ向かう。

ここまで説明すれば、あらゆる問題の根底に眠るのがロリだという話にも頷けるだろう。

また、人々が軽視しがちな「哲学」が非常に大きな示唆に富んでいることをご理解いただけただろうか。


 

自分でも何を言っているのかわからなくなってきたので、そろそろ筆を置こうと思う。

最後に一つだけ言っておく。

このブログを、あまり真に受けないでほしい。

小説紹介(25冊)

① 砂漠(伊坂幸太郎)

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この一冊で世界が変わる、かもしれない。仙台市の大学に進学した春、なにごとにもさめた青年の北村は四人の学生と知り合った。少し軽薄な鳥井、不思議な力が使える南、とびきり美人の東堂、極端に熱くまっすぐな西嶋。麻雀に勤(いそ)しみ合コンに励み、犯罪者だって追いかける。一瞬で過ぎる日常は、光と痛みと、小さな奇跡で出来ていた――。 明日の自分が愛おしくなる、一生モノの物語。

展開が面白いというより、描写や会話、そしてキャラクターが面白い。何気ない日常が連鎖する奇蹟は伊坂作品ならではの魅力。心地よい日常に浸り、永遠に読んでいたい。そんな作品。

 

[この本が気に入った人は是非!]<伊坂ワールド>

オーデュボンの祈り(伊坂幸太郎)

チルドレン(伊坂幸太郎) 

 

 

 

② リバース(湊かなえ)

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深瀬和久は平凡なサラリーマン。唯一の趣味は、美味しいコーヒーを淹れる事だ。そんな深瀬が自宅以外でリラックスできる場所といえば、自宅近所にあるクローバーコーヒーだった。ある日、深瀬はそこで、越智美穂子という女性と出会う。その後何度か店で会ううちに、付き合うようになる。淡々とした日々が急に華やぎはじめ、未来のことも考え始めた矢先、美穂子にある告発文が届く。そこには「深瀬和久は人殺しだ」と書かれていた――。何のことかと詰め寄る美穂子。深瀬には、人には隠していたある”闇”があった。それをついに明かさねばならない時が来てしまったのかと、懊悩する。

最後まで読むと絶対に鳥肌が立つ。おおおぉぉぉすげえ……。設定がよく練られており、完成度はかなりのもの。湊さんの緻密な心理描写も健在で、臨場感に満ちている。ネタバレをしたくないので詳しくは言えないが、とにかく、読んでみてほしい。話はそれからだ。

 

[この本が気に入った人は是非!]<どんでん返し系>

名も無き世界のエンドロール(行成薫)

AX(伊坂幸太郎) 

 

 

 

③ やめるときも、すこやかなるときも(窪美澄)

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大切な人の死を忘れられない男と、恋の仕方を知らない女。 欠けた心を抱えたふたりが出会い、お互いを知らないまま、少しずつ歩み寄っていく道のり。 変化し続ける人生のなかで、他者と共に生きることの温かみに触れる長編小説。

 

徐々に距離を縮めていく二人の恋模様に、読者もつい心が弾んでしまう。ああ恋したいなあ。落ち着いた雰囲気の恋愛小説をお探しの人におすすめ。

 

[この本が気に入った人は是非!]<恋愛小説>

崩れる脳を抱きしめて(知念実希人)

じっと手を見る(窪美澄)

 

 

 

④ 君の膵臓をたべたい(住野よる)

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ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それは、クラスメイトである山内桜良が密かに綴っていた日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて――。読後、きっとこのタイトルに涙する。

いわゆる「青春小説」の代表的な作品。泣ける。悪いように言えば甘ったるさもある作品なので(青春小説はそういうものだが)、好みは分かれるかも。読みやすい文章で描かれているので気軽に読み始められるのも◎。終盤は涙を流しながら読んでください。

 

[この本が気に入った人は是非!]<青春小説>

桜のような僕の恋人(宇山佳佑)

生きてさえいれば(小坂流加)

 

 

 

ホワイトアウト(真保裕一)

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日本最大の貯水量を誇るダムが、武装グループに占拠された。職員、ふもとの住民を人質に、要求は50億円。残された時間は24時間! 荒れ狂う吹雪をついて、ひとりの男が敢然と立ち上がる。同僚と、かつて自分の過失で亡くした友の婚約者を救うために――。圧倒的な描写力、緊迫感あふれるストーリー展開で話題をさらった、アクション・サスペンスの最高峰。

手に汗握る逃走劇!臨場感あふれる雪景色の中、一人の男がテロリストに立ち向かう。読了後は諸手を挙げて主人公に拍手を送りたくなる。よくやった。あっぱれだ!読み始めたら止まらないので注意。

 

[この本が気に入った人は是非!]<サスペンス>

ダ・ヴィンチ・コード(ダン・ブラウン)

ゴールデンスランバー(伊坂幸太郎)

マリアビートル(伊坂幸太郎)

 

 

 

⑥ 告白(湊かなえ)

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「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!

とりあえず、第一章を読め。特に小説を普段読まない人におすすめ。小説の面白さに気づかせてくれる一品。そして、湊かなえさんにハマれ。

 

[この本が気に入った人は是非!]<視点循環系>

夜行観覧車(湊かなえ)

ナミヤ雑貨店の奇蹟(東野圭吾)

 

 

 

⑦ ボトルネック(米澤穂信)

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亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

氷菓』シリーズの米澤穂信さん。爽やかさを前面に押し出した紹介文だが、その実、中々に救いのない話である。だがそこがいい!虚ろな人生を送っている人におすすめ。ご都合展開にうんざりしている人にもおすすめできる。

 

[この本が気に入った人は是非!]<唖然系>

何者(朝井リョウ)

 

 

 

⑧ 名前探しの放課後(辻村深月)

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依田いつかが最初に感じた違和感は撤去されたはずの看板だった。「俺、もしかして過去に戻された?」動揺する中で浮かぶ1つの記憶。いつかは高校のクラスメートの坂崎あすなに相談を持ちかける。「今から俺たちの同級生が自殺する。でもそれが誰なのか思い出せないんだ」2人はその「誰か」を探し始める。

辻村さんの作品は、何といってもテーマが重い。しかしそれでいてバッドエンドにはならないのが大きな魅力。読みやすくて気軽に手に取れて日常が舞台の小説が好きだけど、青春小説のように軽く甘酸っぱいものはちょっと……という方は辻村さんの作品を読むといい。

 

[この本が気に入った人は是非!]<辻村ワールド>

かがみの孤城(辻村深月)

朝が来る(辻村深月)

 

 

 

⑨ Red (島本理生)

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夫の両親と同居する塔子は、イケメンの夫と可愛い娘がいて姑とも仲がよく、恵まれた環境にいるはずだった。だが、かつての恋人との偶然の再会が塔子を目覚めさせてしまう。胸を突くような彼の問いかけに、仕舞い込んでいた不満や疑問がひとつ、またひとつと姿を現し、快楽の世界へも引き寄せられていく。上手くいかないのは、セックスだけだったのに――。

理解できないし、理解したくもない小説。ボロクソ言っているようだが、それほど強い感情を抱かせる作品は良作だと思う。不倫する女が主人公の、どろどろした話。思いだしただけで女へのヘイトが高まっていく感がある。

 

 

 

 

 

以上、計25冊の紹介でした!

おすすめの本とかあったら下の方にあるコメント欄にでも書いてくれ!

旅行記 箱根

朝。
白濁した露天風呂に浸かりながら、耳を澄ませる男がいた。
竹の壁の向こうで、ちゃぷんと水の音がしたのだ。
方角的に、そちらは女湯。
そろそろ身体も温まってきたから、部屋に引き上げようと思っていたのだが。


周囲を見渡す。
誰もいない。実質貸切。
コロナのおかげで宿泊客自体がかなり少ないのだろう。


再び壁の向こうに意識の矛先を向ける。
温泉の効能に、煩悩の解消はないらしい。
そして、「迷ったらGO」と高校時代の部活顧問に教わった。
やらずに後悔するよりもやって後悔しろ、と向かいの家の柴犬も吠えていたではないか。
そう、今や全世界が、おれの味方だ!


などといった煩悩を鎮めるべく、緑茶を啜る。
緑茶には煩悩の解消の効能がある。
と勝手に思っている。
いやあ、急須で淹れた茶はなんか美味い気がするな。


布団で伸びている連れを見る。
なんでこいつはメガネをかけたまま寝ているんだろう。


ふと、昨日のチェックインを思い出した。
そこで貸切風呂を勧められたんだっけ。
丁重にお断りして部屋に来れば、布団がぴたりと並べられてるし、これはもう、そういうことなんだろうか。
そういうことなんだろうな。


まあ、こいつははるばるおれの家まで車で迎えに来てくれた。
まるで彼氏だ。なら、おれは彼女だ。
運転も任せきりにしてしまったし、ゆっくり休むといい、ということで先程の朝風呂には一人で行ってきた、という背景がありましたとさ。


朝食の時間になると流石に連れも目を覚まし、二人でエレベーターに乗り込んだ。
1階広間。
大きな窓が見えるように、すべての机が同じ方向を向いている。
と、思いきや、窓から見える景色がさほど良いわけでもないところを見るに、単に向かい合わせを避けているだけらしい。コロナの時期の宿の運営も大変だ。


机の上には食事が置いてあるのだろう。
推定形なのは、それが大きな白い紙で隠されているからだ。
節々にコロナ対策を感じる。
だが、おれは全く別のことを考えていた。


隠されているものを暴きたくなるのは、人の真理だと思う。
この紙の下でどんな豪勢な食事が待っているのだろうと、ついつい期待してしまう。


同じように、パンツは隠れているから価値がある。言ってしまえばパンツなんてただの布だ。価値も意味もない。だが、それが隠れていること、そして見せまいとする心意気にエロスがある。隠さねばならないと本人が思っているにも関わらず、ふとした瞬間に見えてしまう、だからそそるのではないのか。そういう意味では、青年誌の表紙を堂々と飾る下着姿の女など、微塵もエロさを感じない。例えば、自転車に乗る女子高生のスカート、階段を昇ってくる女子大生の胸元、電車でスマホを眺めるOLのブラウスのボタンの隙間、注意深く見れば世界には美しい光景が広がっている。それはエベレストの頂上からの景色よりも、ナイアガラの滝を眺望する高台からの景色よりも、遥かにロマンチックでアトラクティブだろう。そうだ、先程「見せまいとする心意気にもエロスがある」と書いたけど、これは例えば階段で自らの尻を押さえるミニスカ女などが該当する。下着が見えないように、と考えての行動だろうが、彼女らは何も理解していない。その隠そうとする心理こそが、どれほどの興奮を与えるか!下手なパンチラよりも遥かにそそる。諸手を挙げて喝采したい。その心意気にアッパレ!と。


などといった煩悩を鎮めるべく、緑茶を啜る。
さっきも言った通り、緑茶には煩悩の解消の効能がある。
と勝手に思っている。
丁度料理が和食で、緑茶があって助かった。
因みに、どうでもいいことだが、食後にコーヒーが出てきたのは、今でも納得がいっていない。和食とは。


「彼氏」が運転する車に乗り、まずは大涌谷へ向かう。
箱根と言えば大涌谷大涌谷と言えば、なんだろう。
白い煙が岩肌から立ち上る様は、さながら地獄のようだと言われている。
おれの罪を裁こうとでもしているのだろうか。


そうは問屋が卸さない。
おれは大涌谷で、名物の黒たまごを2つ食べた。
1つにつき寿命が7年伸びるらしいから、当分の間は地獄へ行けない。
それに、14年の間に天国へ行ける人間になるかもしれないしね。
だから安心して、デートで来ているカップルたちを呪っておいた。
でもよくよく考えたら、今のおれは「彼女」だった。


再び「彼氏」の運転する車に乗り、今度は駒ヶ岳へ向かう。
ロープウェイで頂上へ昇った。
天気が悪かったせいか、頂上は霧がかかっていて、5m先は霞んで見えた。誇張ではない。
おれらは遊歩道を歩いたのだが、少し離れると相手の姿は見えなくなるし、周りの景色は当然何も見えないし、なんなら進むべき道も見えない。
まるで人生だ。
そして見えないものほど……いけない。
カバンからペットボトルの緑茶を出し、ガブガブと飲んだ。


最後に、彫刻の森美術館に行った。
裸婦の銅像があちらこちらに聳え立っているものだから、目のやり場に困った。
なんてことは、まるでない。
あたかも美術品を嗜んでいます、といった顔で凝視した。緑茶も必要ない。
さっきは「青年誌の表紙を堂々と飾る下着姿の女など、微塵もエロさを感じない」と言ってしまったが、目の前にいたら見るだろう。そういうもんだ。
服を脱いでる途中の裸婦像を見る。作ったやつは天才だと思う。芸術がなんたるかを理解している。


「彼氏」の車の中でスピッツの「おっぱい」を高らかに歌いながら、帰路についた。
別に通り道でもないのに家の近くまで送ってくれたのは感謝でしかない。ありがとう。
さあ、どうオチをつけようか。
と思ったけれど、そもそも旅行記にオチは必要ないことに気がついた。

就活と安寧(3)

前回↓
r-tryangel.hatenablog.com


就活だけが、おれの心の安寧を奪う。
4日間に渡るインターンを終え、存分に奪われてしまった。
一つ、わかったことがある。


おれに仕事は向いていない。
知ってたことではあるのだが、なんというか、やっぱダメかーってなった。
おれというニンゲンの欠陥のひとつに「協調性のNASA」がある。
どーも上手くいかないんだな、これが。


ワークを通して、「大切なのは人間力だ」とか「人に興味を持ち、よく話を聞いて信頼を勝ち取れ」とか、繰り返し言われた。


ハッキリ言って、全部できない。
人に興味を持つ?信頼してもらう?
おれが?人の話を?聞いてるフリではなく?
いやいや。
冗談はよしてくれ。


これまで不動産業界をいくつか見てきたが、イマイチ向いている気がしない。
せっかく資格まで取ったのに、このザマだ。


なら、人と関わらない仕事ってなんだろう?
ただ決められたことを淡々とこなしていればよくて、人との関わりが少ない仕事……。


帰り道、川沿いを歩きながら思う。
おれは昔から、これほど人付き合いが苦手だったろうか。
人を信じられなくなって、利己主義に陥った。
そして、それをさほど悲しいとも、あるいは直そうとも思えないから、知らぬ間に何かを失ったのではないかと不安になる。


直さなくていい、と右脳が叫んでいる。
だけど、このままでは本当に働けない。
そして左脳からは、「もうどうでもいいじゃん。楽になろ?」といつものおれの声がする。


次回↓
r-tryangel.hatenablog.com

お題『きみに恋したあの日から』ver.2

お題『きみに恋したあの日から』

条件[今日はいつもと違う匂いがするね/俺なら泣かせたりしないのに、なんて言えないけど/馬鹿だな、ってわらってくれたら]

また例の企画です。なんとか条件をクリアします。


 

 

 

 

「今日はいつもと違う匂いがするね」

彼女の背を指でなぞる。いつもの通り、返答はない。

ぼくは優しい声で言葉をつなぐ。いまだ肉体的なつながりを持っていないぼくらをつなぎとめるのは、言葉だけだ。

「すきだよ」

 

 

限りない慈しみを込めて、焼きあがったばかりのパンを撫でていたら、突如として背中を蹴られた。

「おい早くしろろくでなし。毎日毎日パンに話しかけやがって。気持ちわりい」

ぼくは決して返答をしない。

ぼくとこの人との間には言葉のつながりすら必要ない。労働と、対価だけの関係なんだから。

 

 

「おまえ、まだ学生だよな?いい加減学校行けよ」

無視だ。関係ないくせに。

「まあおまえが何してようがおれにゃ関係ないけどな」

なんだ。よくわかってるじゃないか。ぼくはこの人に干渉しない。この人もぼくに踏み込まない。そんな漠然としたルールの下で、このさびれたパン屋は回っている。

 

 

今日は何人来るかな。

向かいの穴だらけの工場を尻目に、ぼくはトレーを持って立ち上がる。

 

 

さあ、仕事の時間だ。

 

 

   🥐   🥐   🥐

 

 

おれはパン屋の店主だ。

偉そうに言ってみたはいいが、いつまで店が保つかわからねえ。

毎朝早起きしてパンを焼いても、その大半が晩にはごみ箱行きだ。

作るだけ無駄。だが店頭にパンが並んでいないパン屋なんてありえねえ。

夢がねえってもんだぜ。

 

 

けどなあ。

いつまでも赤字を出してるわけにもいかねえし。

かといって店を盛り上げるノウハウもねえ。

アルバイトを一人雇っているが、あの坊主をいつまで置いておけるか…。

あいつは、おれが面倒みてやらねえと。

 

 

1か月前だ。店に入ってきたカナブンと格闘していたら、来客を知らせる音が響いた。

ドアに簡単なベルがぶら下がっているのだ。我ながら気に入っている代物で、開店時からずっとある。っっても5年かそこらか。

 

 

「おう!らっしゃい!」

ラーメン屋じゃないんだから、とかつての友に言われたことを思い出す。

「安くしてあるぜ!たっぷり買ってってな!」

かましい店主さんだこと、と近所に住んでいたおばあさんがほほ笑んでいたことも思いだした。

もう、彼らはこの街にいないのに。

 

 

「ぼくを…」

「あん?」

「ぼくを、雇ってください」

「はあ!?」

 

 

不思議な雰囲気のガキだった。

おれを見ているようで、なにか違うものを見ているような。

どこか上の空に見えるのに、妙にこだわりのある男に感じた。

年齢は中学生ってところか。

 

 

「あのなあ、うちにバイトを雇う余裕なんて」

「あります」

「おめえ…」

「大丈夫です」

 

 

フン。面白い。

どちらにせよ、ずっと独りじゃ暇だった。

そう思って雇うことにした。時給は500円。驚いたことに文句は言われなかった。

まあ、パンの処分も兼ねて三食食わせるハメになってるからかもしれんがな。

驚いたことはもう一つあって、1か月間、彼は一度も休まなかった。

学校はどうしたのか気になったが、応えてくれた試しはない。

つうか、大抵の質問はガン無視だ。いい度胸してやがる。

そのくせ焼き立てのパンには毎日ぼそぼそと話しかけている。本当に薄気味悪いガキだ。そういえば名前も知らない。一体どこのどいつなんだろう。

 

 

   🍞   🍞   🍞

 

 

18時に店が閉まれば、ぼくの仕事はおしまいだ。

かららんといい音がするドアをくぐり、夜風を受けて歩き出す。

角を曲がって、まっすぐ行って、角を曲がって、誰もごみを回収しないゴミ捨て場を通り過ぎて、無人の家に入る。ベッドに虫が湧いている。仕方なく、壁に身を委ねて目を閉じる。静かだ。

 

 

人のことは簡単に殺せるのに、自分は案外死なないもんだな。

ぼくなんか生きてたってしょうがないのに。誰も罰する人なんていない。

電気もガスも水道も止まったこの家から突然住人が現れて「誰だ!」と叫ぶこともない。

この街には先の短い老人が数十人と、同じく先の短いパン屋と八百屋があるだけだ。

 

 

本当はぼくの家もあったはずなんだ。

でも、両親の死体が転がるあの家に、帰りたいとは思わない。

 

 

   🥖   🥖   🥖

 

 

「俺なら泣かせたりしないのに、なんて言えないけど」

今日もやってる。アレはなんの儀式なんだ?

「それでも、ぼくはきみを想っているよ」

一人称変わってるじゃねえか。

 

 

『儀式』の最中のあいつは、一体何を見ているのだろう。

相変わらずここじゃないどこかを傍観しているような虚ろな目だが、パンに話しかけるときだけは少しだけ優しさの色が灯っている気がする。

 

 

来客を知らせるベルは鳴らない。この店で、おれとこいつだけが、このかぐわしい香りを知っている。それはどこか、秘密基地を発見した子供時代の高揚感を思わせた。

 

 

「なに見てるの」

おれは初めて、人の声に恐怖を感じた。

どこからそんな冷たい声が出るんだ。

振り返った少年の目は今日も暗い。

 

 

少年が近付いてくる。

おれは硬直して動けない。

 

 

それが最後だった。

「馬鹿だな、って笑ってくれたらよかったのに」

薄れゆく意識の中で、優しい声が聞こえた。

「結局おじさんも、ぼくを罰してくれないんだね」

お題『きみに恋したあの日から』ver.1

お題『きみに恋したあの日から』

条件[不安にさせないで/絶対に落としてみせる/どう足掻いても、結末は変わらないの]

ランダムで選ばれた文字列を使って小説を書く企画です。素人なんで大目に見てください。

 

 

 

 


「あなたが誠実な人だってことはわかってるの。そうじゃなきゃ結婚してない。でもさ、不安になるものは仕方ないじゃない。こんなこと言って重い女だ、なんて思うんでしょう。わかってるわよ。あたしもそう思う。毎日一生懸命仕事してくれてるのはありがたいよ。わかってるのよ。わかってるけど、朝から晩まであたしはずっと独りなの。家にいてもなんにも楽しいことはないし。あなたは会社で好き勝手できるかもしれないけど。楽しくていいでしょうね。あたしの気持ちがわかる?いいえ、あなたにはわからないと思うわ。バカにしてるわけじゃない。あたしだってこんなこと言いたくないわよ!でもなんであたしばっかり…」

 

 

徐々にヒートアップしていく女の話を、男はただじっと聞いていた。

ソファに背を預け、手を開いて、閉じて、開いてを繰り返して、嵐が過ぎ去るのを待つ。

女の話を聞くのは嫌いだ。

口を開く前に整理してほしい、と思う。思い付きのままに当たり散らすのは、少しわがまますぎやしないか、とも考えたりする。

 

 

しかし、それもいつしか諦めた。

女は頭が悪いのだから仕方ない。

自分に言い聞かせて、女の言う通り、男はできる限り誠実に向き合ってきた。

思考の海に沈んでいる間も、女の話は続いている。

聞いているフリをしていればいいのだ。女は意見の交換を求めない。ただ聞いてほしいだけの、浅はかな動物だ。

これは6年も生活を共にして、たどりついた「答え」だ。

時折相槌をはさみながら、雨は中々降りやまないなとぼんやり思う。

 

 

「それで?」

 

 

けれど、人間は太陽を待つばかりではない。雨が降っていれば傘をさすし、車だって運転する。

いい加減、結論を出してほしい。

 

 

「おれはなにを直せばいい。きみの気持ちはわかった。いつも苦労をかけてすまない。感謝もしている、ありがとう」

 

 

こう言っておけば凌げるだろう。

夫婦円満の秘訣は、夫の我慢だ。

 

 

「でも、おれもわからないんだ。おれはなにをしたらいいのかな」

「なにかをしてほしいわけじゃない。その…ごめんなさい。あなたに不満を感じているわけではないわ」

 

 

これだ。

いつもこれだ。

自分ばっかり好き放題言って、結局中身は空っぽだ。

結局なんだった?今の時間はなんだった?

伝えたいメッセージがないなら、最初からしゃべるなよ、クソが。

 

 

「そうか。部屋に戻るけどいいかな。夕飯は、今日はいらない」

返事を待たず、階段を昇る。

2年前に買った我が家。

きみに恋したあの日から、いつか華やかな家庭を築くことを夢見ていた。

働いて貯蓄を増やし、ローンを組んで念願の我が家を建てた。家具もすべて揃えた。なのに何故、肝心なものがなくなってしまったのだろう。

 

 

書斎の扉に寄りかかるように腰を下ろした。

もう、疲れてしまった。

夢も希望もない。こんな家がなんだっていうんだ。

この家は二人の愛の巣だ、なんて笑いあっていたのに。

あいつはどんな気持ちで、この家に他の男を招き入れたっていうんだ。

 

 

夫婦円満の秘訣は、夫の我慢だ。

おれはよくやっている。本当によく、頑張っている。

零れ落ちる涙で膝が滲む。

 悔しくて、悔しくて、たまらない。

 

 

「どう足掻いても、結末は変わらないの。あなたはあたしと結婚することになるわ」

 

 

告白してきたのは女の方だ。

知り合ったのが25歳。職場での立ち振る舞いも慣れてきて、後輩の指導やしりぬぐいの日々だった。

女は二つ下の後輩で、突然おれのデスクに来ては、「先輩今夜ごはんを食べましょう」なんて言った。

うれしかった。本当に疲れていたから。

職場で明るく優しく振る舞う反面、家では暗い顔ばかりだったから。

もうどっちの自分が本当の自分なのかと、ずっと悩んでいたから。

女の誘いが神の啓示に思えたんだ。

 

 

その晩、シングルベッドの上で、女はおれの胸に指を這わせながらあの言葉を放った。

おれはなんと答えればいいのかわからなくて、眠ったフリをしていた。

「あなたはあたしと結婚することになるわ」

頭の中で反響する。

とても幸せで、にやける顔を見られたくなくて、おれは寝返りを打ったんだ。

 

 

「ごはん、食べない?」

扉の向こうから、遠慮がちに声がする。

記憶をかきむしるイヤな声だ。

黙っていると、すすり泣く音が聞こえた。

「ごめんね…ごめんね…本当にごめんなさい…」

なんでおまえが泣くんだ。おれは我慢したのに。おかしいじゃないか。

 

 

きみに恋したあの日、なにがあってもきみを許してしまうんだろうなと予感した。

この家以外に、おれの居場所はない。

この人以外じゃ、ダメなんだ。

 

 

「絶対に落としてみせる」なんて、一人で決意を固めた過去が、昨日のことのように思える。告白してきたのは女の方だったけれど、本当におれのことが好きなのか?と不安だった。不安だったんだよ。頼むからあんまり不安にさせないでくれよ。おまえに惚れられるような男になりたいってずっとずっと思ってた。だから嫌われないように、おれは頑張ってきたんだよ。なのに。

 

 

違う。

おれはそんなことを望んだんじゃない。

おれはもっと、本気で、心から、おまえに向き合っていたかった。

会社でも家でも偽りの笑みを浮かべてどうする。

違うだろ、おれの望んだものは!我慢して何になるってんだ! 

 

 

立ち上がり、ゆっくりと扉を開ける。

涙にぬれた大きな目が、おれを見上げる。

きっとおれも、同じ顔をしているんだろう。

 

 

「もういいよ」

それだけ伝えて、愛する人を抱きしめた。

夢日記 20200715

寮のベッドにうつ伏せになって絵本を読んでいたら、彼から電話がかかってきた。


「海、来てよ」
「おっけ」


ぼくらはいつも、最低限の話しかしない。
飾られた言葉を必要としない関係をぼくは心から大切に思っているし、それは彼だって同じはずだ。


ぼくは絵本を閉じ、本棚にしまう。
黄色の表紙が浮かないのは、部屋が明るい色で満ちているからだろう。
暗い部屋にいると気分が暗くなるからと、昔彼が言っていた。


もう夕方だから半袖のTシャツじゃ肌寒いかもしれない。
薄手のパーカーを羽織り、姿見で寝癖がないことを確かめると、机に置いてある鍵を手にして部屋を出た。


外は曇り空。
生温い風が潮の香りを運んでいる。
前髪が目にかかって、そろそろ髪を切らなきゃなあと思う。


ぼくは軽やかに走り出す。
彼が待つ海までは2分ほどで着くはずだ。


いくら彩りを施した部屋に住まおうとも、ずっと引き籠っていると、心が濁るってもんだ。
隣の部屋から楽しそうな笑い声なんか聞こえれば、ついつい舌打ちも出てしまう。
舌打ちやため息は人に不幸を呼ぶと言われるけど、ぼくは違うと思う。
もう舌打ちやため息の時点でその人は不幸なんだ。それによって不幸になるのは因果関係の逆転だ。


なんて言ってると理屈っぽいと思われるだろうか。


でも、こうして外に出ると、精神が浄化されているような気がする。
風に乗った澱はどこに向かうのだろう。
ぼくから流れ出た澱が誰かの心を黒く染めているとすると、なんだか申し訳ないような、いやでもやっぱりちょっと嬉しいかもしれない。
ぼくは昔から、誰かに影響を与えられない人だったから……。
ぼくのために怒ったり泣いたりした人が、これまでかつていただろか。


海は凪いでいた。
彼はサンダルを脱いで、海の中に立っていた。
静かに沖を眺める彼はなんだかとても奇麗で、ぼくはスマホでその風景を切り取る。


「待たせた」
「大丈夫」


ゆっくりと彼が振り返る。
その首には蛇のような何かが巻きついているけど、もう慣れた。


その化物は彼と一体化していて、離れることはない。
彼の細い首との繋ぎ目は毒々しい青紫色に染まっているのに、痛みはないらしい。
化物は彼とは異なる意思を持っていて、好き勝手に頭を動かしている。
化物は彼にも、他の人間にも危害を加えたことはないという。
けれど、何を考えているかわからない目で射抜かれると、ついついギクッとしてしまう。


「呼び出して悪かった」
彼は首に巻き付く"それ"などまるで気にせず、最低限の言葉を放った。
いつも無表情で口数も少ないから、何考えてるかわからないところはこの化物と同じだな、と苦笑する。


手の届く距離に来て、ぼくが返事をするとき、お約束通り事件は起こる。
ハッとしたとき、化物の口は眼前にあって、ぼくは暗闇に吸い込まれる。
牙が顎の下にくい込んでいる。
やばい。
血が流れる。
命の危機に晒されて、ぼくの両手は存外合理的に動いたらしい。
頭に噛み付いた化物の口を両手でこじ開け、なんとか脱する。
頭と首から血が滝のように流れている。
温かい。
こんなに温かかったのか。
パーカーなんか要らなかったかな。


彼は悪くない。
わかっている。


それでも、ぼくの目は信じられないものを見るように見開かれているのだろう。


「違う……」
声が聞こえて、我に返る。


「違う!違うんだ!おれじゃない!違うんだ!違うんだ!違うんだよ!」


彼が取り乱す姿を初めて見たのに、ぼくは無感動だ。


「信じてくれ!おれじゃないんだ……」


不意に手を差し出されたとき、ぼくは一歩後ろに飛びずさっていた。
そして、彼が大きく目を見開き、悲しげに瞼を閉じる。


「違うんだ……」


ふるふると首を振って、彼は後ろを向いた。


「うわああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


彼は叫び声を上げて、化物の首を絞める。
苦しみは伝播するのか、彼自身も身を捩り、膝をついている。
それでも、首を絞めることをやめない。
泣き叫びながら自殺行為で悶える姿は見ていて哀れだった。
ぼくは、ただ見ていた。





しばらくして、ぱしゃりと音がした。
それは写真を撮る音にも聞こえた。
首を絞めるのをやめて、後ろを振り返る。


そして理解する。
今のは、水の音だったのか、と。
一瞬、友だちが何故伏しているのかわからなかった。
涙が止まらない。
何だ。何故だ。一体何が起きている?


赤黒い液体はこの世のあらゆる憎しみを凝縮したようだった。
放り出されたスマホの画面には、化物を担いだ青年が海の中で仁王立ちしている。


もう首を絞める気にはなれなかった。
今度は「彼」が立ち尽くす番だった。


ただただ、立ち尽くした。