夢日記
木の香りが漂う古い旅館の中で、咀嚼音が響いていた。 半紙を前に跪き、筆も手に取らず、一心に何かを噛んでいる。 美味しい。 引きちぎり、噛み、飲み込む。 引きちぎり、噛み、飲み込む。 飽きることなく、一連の動作を繰り返す。 急に、閉ざされていた引…
寮のベッドにうつ伏せになって絵本を読んでいたら、彼から電話がかかってきた。 「海、来てよ」 「おっけ」 ぼくらはいつも、最低限の話しかしない。 飾られた言葉を必要としない関係をぼくは心から大切に思っているし、それは彼だって同じはずだ。 ぼくは絵…
外では陽気な音楽と、太鼓の音が鳴り響いている。 思わず小躍りしたくなる。時折聞こえる歓声も、テンションの高鳴りに拍車をかける。 この甲高い声は、小学生のものだろう。 踊っている場合ではない! 咆哮する四足の魔物。剣戟。金属音。走る爪跡をバック…
「おいおい間に合わねぇじゃんか!」 「言ってる場合かよ!走んぞ!」 「おまえが待ち合わせ時間間違えたからだろがっ!」 電車から降り、改札を抜け、バス停へ。 澄み渡る青空。絶好の遠足日和だ。 そして、走るのには向かない。暑いから。 なーんて言って…
文化祭の前日、ぼくらは準備をしていた。 今回の舞台が中学なのか高校なのか、はたまた大学なのかは定かではない。なぜなら双方のメンツが混在していたからだ。一つ、確実なことがあるならば、ぼくらが使う教室の構造が、家の近所のセブンイレブンと同じだっ…
(うっわ、まーた定期忘れたよちくしょう) 駅の改札の前で、ポケットに手を突っ込んで呆然とする。現金で切符を買おうか迷った末、結局家に戻ることにした。学校に遅刻するのと無駄金を使うのを両天秤にかけた結果だ。時は金なりとも言うが、金もまた金なりだ…