夢日記 20201127
木の香りが漂う古い旅館の中で、咀嚼音が響いていた。
半紙を前に跪き、筆も手に取らず、一心に何かを噛んでいる。
美味しい。
引きちぎり、噛み、飲み込む。
引きちぎり、噛み、飲み込む。
飽きることなく、一連の動作を繰り返す。
急に、閉ざされていた引き戸が開いた。
誰かが何かを叫んでいる。
が、おれの耳には届かない。
今はただ、目の前のものに夢中だ。
ところで、さっきから何を食べているのだろう。
急に疑問に思い、手に持っているものを見た。
それは、黒の柔らかい素材のタオルだった。
「タオル…?」
瞬間、これが夢であることを認識。
同時になぜこの夢を見たのかも理解した。
昨晩読んだ小説だ。
小説の中で、森に遺棄された少女の口から、タオルの繊維が発見されていた。
おそらく、犯人は少女の口にタオルを押し込んで窒息死させたのだろう。
無論、叫び声が周りに聞こえないように、だ。
となれば、この夢は不吉だ。
気がついてなお、咀嚼音は部屋に鳴り響いている。
止めたいのに止められない。
おれは取り憑かれたように、黒いタオルを頬張り続けた。