とらの徒然

ネコ科のペンギン

楽しいミスド食べ放題

こんにちは。久々に日記系ブログにします。


日記というからには何かあったんです。まぁ何も無くても日記書く場合もあるでしょうけど。


昨日、ミスドに行きました。
ミスドの中には「食べ放題」なるものを開催してる店舗がありまして、そこにサークルの人々と赴いたんです。青春ですね。


我ら、何故か定期的に大食い大会をする「ガチかくれんぼさーくる」。最早「ガチ大食いサークル」とかに改名した方がいいんじゃね?と密かに思ってたりする。


そして、そんな大食い大会に、おれは初参戦だった。
正直、大食い大会などアホらしい。少なくとも、この段階ではそう思っていた。食べ物は美味しく食べてなんぼだろ。目の前の食料に我を忘れるなど、獣のすることだ。因みに、おれは後に食べ過ぎて苦しむ羽目になる、獣だ。


知らない方もいると思うので、軽くミスドの食べ放題ルールを説明しよう。
値段は1200円。店舗に出てるドーナツ食べ放題、ドリンク飲み放題。制限時間は1時間。
初回はドーナツ6個まで、2回目以降は3個まで持っていくことができる。つまり、一気に10個!と欲張ることはできない。まあその結果食べきれなかったら店としては大損もいいところなので、妥当だろう。


以前にもサークルメンバーはこの企画をやったことがあるらしく、前回参加者の最高記録が14個で、女性陣は7~8個くらい、男性陣は9~10個くらいが限度だという情報を得ていた。


いや冷静に14ておかしいだろ。体積考えろよ。
ドーナツ14個も腹に入るのか?


おれを知っている人はわかると思うが、おれはかなり華奢だ。身長177、体重60。まぁ、今回は2桁も食べれば十分だ。


そして、前回参加者からアドバイスを頂いている。
「パイ系を確保しろ」
パイ系って軽いんかね。よく分からないけど皆が口を揃えて「パイ!!パイ!!」と叫ぶのだ。思春期かな。なんにせよ、先人のアドバイスには従うべきだ。人類の強みは、歴史からの学習ができること。そうやって人は進化していくんだ。


しかし、だ。
このアドバイスを受けているのはおれだけではない。参加者全員がパイを狙っている。熾烈な争いは避けられない。初回の6個で、どれだけパイを獲得できるか。ここにこの勝負の命運がかかっていると言っても過言ではない。なお、この時点で「楽しく食べる」という当初の意思は銀河の向こうへ消え果てていることに、おれは気がついていない。人は愚かなものだ。



さて!
それでは入店!
行進よろしく、意気揚々とドアをくぐり抜ける。その先は、広がるドーナツの世界!今、目の前に並ぶドーナツを食べ尽くしたとしても、誰にも怒らない!なんて!なんて平和な世界なんだ!!無限にドーナツを食べられる…ことを夢見たことは実はないけれど、この状況にワクワクしない人間は、もう人間ではないだろう!


まぁ…そんなこと言っていられるのは最初のうちだけだと、薄々思ってはいたんだ。



【1~6個目】


いざドーナツを取ろうとして気がついたことが一つ。


は?パイ系ねぇじゃん。


大誤算である。
パイ系をどれほど獲得できるかが、勝負の分かれ目だった。それなのに、なぜ。
森をさまよった末民家を見つけたが廃墟だった…並の虚無感である。
静かに、確実に、暗雲が近づいていた。


おれはオールドファッションには目もくれなかった。普段なら確実に購入リストに入るほどの絶品だが、今日は違う。あの質量を見ろ。確実に死ぬ。あれほど「中身の詰まった」ドーナツを、今日食べる訳にはいかぬ。


楽しく食べるというモットーなど捨てて行け。平和主義者だって、戦場に赴いたからには引金を引く定めなのだ。


これまでの人生で、一度に買った最大のドーナツ数は5個。1つや2つ増えたからと言って変わるものではない。6個など容易い容易い。チュロスを食べるのは顎が疲れるから案外体力を消耗する、ということを学びながら、おれは難なく6個の壁をクリアした。


【7~9個】


先程記したように、2周目以降は3つまでしかドーナツを席まで持ってくることができない。他のメンバーは、念の為2つしか持ってこない人が多かったが、おれは強気だった。スイーツは別腹というではないか。スイーツしか食べてないだろ。


さっき食べた6個とは違うやつを選びたい。この手の勝負は、ただ腹が保てばいいわけじゃない。精神もまた、健全に保つことが大事なのだ。同じドーナツばかり食べて飽きてしまっては、元も子もない。そして、おれは中身の詰まったドーナツを選んでしまった。やはりキッツイなと嘯きながら、9個の壁を難なく(?)突破する。


【10~11個】


弱気になった。
2桁という目標達成を前に、3つ持ってくる危険を冒せなかった。


中身の詰まったドーナツが連続するとキツいと学んだので、クリーム系を選んでみた。人は学習により成長する。先人の知恵を受け、自らの経験を糧に前身し続けるおれは、さながら人類史そのものだろう。いや、先人の知恵はパイがなかったから役に立たなかったけれども。


ところで、先程から地味に気になっているのが、トレーに敷いてある広告だ。
どこぞのロールケーキ屋とコラボしたドーナツ、その名も「ローナツ」なる商品が存在するらしい。


見た目はまさに、カットしたロールケーキだ。お値段も200円越えとお高いが、食べ放題なら遠慮なく食べられる。


されど残念ながら店舗には並んでいない。ないものは食べられない。売り切れてしまったのだろうか。時計を見れば、もう夜9時である。


さて、中身の詰まったドーナツの反省を活かしてクリーム系を選んだと言ったが、クリーム系2連も中々に渋かった。学習し、おれはまた一歩前進したわけだ。


時間はまだある。
行こう。颯爽と立ち上がる。


道中、一つゲップをした。
限界は近いなと頭のどこかで感じていた。
少しでもカロリーを消費しようと無駄に飛び跳ねてみたりした。


【12~13個】


もうほとんど全種類のドーナツを食べた。
食べたいドーナツは残っていない。
おいしく食べたいならば、もうやめ時だとはわかっている。楽しく終わりたいのなら、ここで箸を置くべきだ。


しかし、余力があるのに、時間があるのに、ただ何もせず時を過ごすのか?


ーー違うだろ。


普段は影すら見せないおれの熱意が、ここで何故か目覚めた。
いつもなら余力を残し、周りから静観することを好むこのおれが、まだやれると息巻いている。
不思議だ。
しかし悪くない。


甘ったるい食べ物にはうんざりだ!なんて弱音は吐かない。
味の感覚は捨てて行け。


気がつけば、オールドファッションがぼくを見ていた。中身の詰まったアイツだ。
虚空の穴がおれを招いている。
どうして今になって、食べたことの無いドーナツが陳列されたのか。こんな、夜に。カスタードオールドファッション、だと!?


無理だ!入らない!
おれは腹を押さえた。
普通のオールドファッションでさえ無理なのに!
あいつ、クリームも入っているんだよな!?


オールドファッションがぼくを見ていた。
おれは目を逸らし、フレンチクルーラーチュロスを手にした。そう、おれは逃げたのだ。


席に戻るおれを、彼は静かに見ていた。
「ならばどう応える?」
彼がそう問うた気がした。
おれはその質問の意味がわからなかった。


席に戻ってフレンチクルーラーを頬張ったおれは、これにクリームが入っていないことを初めて知った。そして砂糖の量がたまたま少なかったのか、甘いもの続きの舌休めになった。むしろ苦くすらあった。チュロスは相変わらず、顎が疲れる。


だが精神的にはまだ元気だった。
精神さえ死ななければ食べ続けられる気がした。
この勝負は腹が膨れるかどうかではない。
味の暴力に耐えられる精神力こそが大切だ。
事実、おなかいっぱいという感覚はなかった。


現在13個。
前回の覇者は14個だった。化け物だと思ったが案外届くじゃないか。おれは己の限界を決めつけていた。


立ち上がる。
行こう。


【14~15個】


相も変わらず、オールドファッションがおれを見ていた。
おれを試すというのか。どんな手を用意したんだ?見せてみろ。今のおれは強いぞ。お前の手になんて乗らない。カスタードオールドファッションになんて、目もくれない。


視線を横にずらす。
見慣れないものがあった。いや、見慣れてはいた。席に座る度に紙に描かれていた。なんで。なんで、今になって。

そこにあったのは、トレーに敷いてあった広告の「ローナツ」だった。
このタイミングで……ロールケーキ……?


ーーしんどいな。


正直な気持ちだった。
しかし、限定品だぞ。試さないのは損だ。明らかに後悔する。


しかし……これは果たしてドーナツなのか?
ロールケーキには穴がない。
穴がないものをドーナツと認めてもいいものだろうか。


とある先人は前回の大会で「ドーナツの穴ならいくらでも食べられる」という名言を残したらしい。
意味不明だが確かに名言で、的を射ている。
恐らく、限界に近い状況でなお皿にブツが残っている、という絶望から生まれたのだろう。


視界の隅でオールドファッションがほくそ笑んでいた。
最後の最後でこんなものを用意するなんて、なんてタチの悪い。これもオールドファッションの陰謀だと言うのか。


でもお前は選ばないよ、オールドファッション。
おれはローナツと、そしてポンデリングに手を出した。


正直言って、ポンデ系は食感が好みではない。
だから今日もポンデ系は選んでこなかった。
でもまぁ、もう他の飽きたし。
試してみようかと思ったのだ。


レジでラストオーダーの時間だと言われた。
もう一つ追加するか一瞬迷って、やめた。
ローナツの質量が未知数だったためだ。


席に着いて、おれは迷った。
ローナツとポンデリング、どちらを先にするか。


明らかにローナツは重い。重すぎる。
いや案外スポンジだから軽いのかもしれない。いやいや、たっぷり入った白いクリームを見ろ。脅威だろ。これを先に食べてしまったら、ポンデを食べる気力がなくなるかもしれない。


それならばとポンデを先に食べることにした。
一口食べて思う。
やっぱこれ苦手だわ。おいしくねぇ。


何も考えず流し込む。
これで14個。前回の覇者に並んだわけだ。


なんだ案外いけるじゃん。
そのまま勢いに乗ってローナツを一口。


瞬間、衝撃が走った。
決して美味からくる感動の震えではない。
決して新たな味を得た喜びの昂りではない。


ーーなんだ、これは。


それは14個のドーナツを吸収したおれの身体に最大のダメージを与えた。
これまで、精神力を消費せず保っていたおれだったが、その一口だけで、ガツンと精神力が削れたのがわかった。


「甘ったるッ!!!!!!」


気がつけば叫んでいた。
ここまで感情豊かなとらは初めて見たと言われた。
それほどまでに耐えられなかったのだ。


一口だけでもうギブアップしたいレベルの甘ったるさ。まだ余力はあったはずなのに心が折れてしまった。
しかしローナツはまだ9割も残っている。


おいおい…。
おれは忌々しげに顔を顰めてトレーの広告を見た。


宣伝していい代物なのか、これは?本当に自信作だったのか?美味しいと思ったのか?味見はしたのか?完食するのが苦痛以外のなにものでもないぞ!


しかし同時に思った。
これが最後のドーナツだ。
締めに相応しいといえば相応しいのではなかろうか。


これまでと同じような、つまりフレンチクルーラーチュロスのような「普通」のドーナツじゃ締まらないってもんだ。


確かに王道のオールドファッションで締める手もあったが、彼には先程の因縁がある。


そう考えれば、おれはこのローナツとかいう化け物を処理することでこの食べ放題を真の意味で完遂し、進化学的に新たなステージへ進めるのではなかろうか。


一口、一口進むごとに視界は霞んでいく。
辺りには雪が降り積もり、柔らかな雪に膝を沈めながら、それでも前へ進む。

この先になにがあるのか、おれは知らない。
日はとっくに暮れている。頼れる光は手元のランタンだけだ。
一陣の風が吹けば、風が何か恐ろしいものを運んできやしないかと不安にもなる。
寒い。
寒いよ。
しかしここで凍えてしまっては死が待つのみだ。
今は歩くんだ。歩くことしかできない。
吹雪の中を進んだ。
進んだ。
進んだ。


進んだ。





そしてたどり着く。


「完食ッッ!!!」


14個目のポンデとは比較にならない達成感だ。
終戦績、15個。


拍手が起きた。
称賛が心地いい。
ローナツとかいう化け物を制圧して、おれは新たな生物に進化したのだ。
メンバーと互いを称え合い、帰路につく。
おれは足取りも軽く駅まで歩き、電車に乗った。


そして満員電車の中、異変に気がつく。


あれ…?
今更になって苦しくなってきた…?


人は食べてから20分くらい経ってからでないと満腹を実感できないらしい。


ーーやばい!


満員電車で腹が押される。
やめろ!やめてくれ!


気を紛らわすためにTwitterを開いた。
タイムラインにロールケーキの画像が流れてきた。


「うわぁあああああああああああ!!!」


心の中で絶叫を上げる。急いでホームボタンを連打し、Twitterを閉じた。


それから何気なく鼻をかいた。
手からはドーナツの匂いがした。
ぼくは慌てて手を下げる。


這う這うの体で家に帰ると、タイミング悪くback numberの「オールドファッション」が流れていた。ここまで…なんの恨みがあるんだ。オールドファッション!!


ドーナツの匂いが染み付いた手を丹念に洗い流していたら母親が来た。


「ドーナツが余ってるから明日の朝出すわね」


夜、布団に入っても中々寝付けなかった。
無数のドーナツの海に溺れる様を想像して呼吸の仕方を忘れた。
みんなもやってみて欲しい。呼吸の方法を考えているとマジで呼吸できなくなる。マジで。


ドーナツの海のイメージは、中々消えなかった。
このまま眠ったらドーナツの幽霊に襲われて二度と目覚めないのではないかとふと思った。
別にそれでもいいと思いながら、いざそうなると怖く感じるのはなんなのだろう。生への執着だろうか。


翌朝。
手が痺れていた。
胃がもたれていた。苦しい。


今日はフリータイムでカラオケだ。
ドーナツが出てこないといいが。
とりあえず、米津玄師の「ドーナツホール」だけは絶対に歌わない。


一緒にカラオケに行く友人2人がコンビニでドーナツを買った。今、2人はおれにそれを見せつけるように頬張っている。本当にいい友を持った。


しばらくはドーナツは見たくない。
ロールケーキも勘弁してくれ。
冷静に考えて、1時間15個ってなんなん?
4分で1個やろ?
取りに行く時間とか考えたら3分に1個くらいのペースで食べ続けたわけだ。


どうかしてたな。すっかり獣になっていた。
LINEの通知が鳴る。別の食べ放題の会への誘いだった。
ドーナツの穴なら、いくらでも。


おれは電源を落とした。