とらの徒然

ネコ科のペンギン

やばいやばいやばいやばいやばい。


鼻水と咳が止まらない。
今日ポケットティッシュ何個開けた?
家出てから8時間になるけど、もう4つくらい開けたんじゃないか?こんなこともあろうかと沢山持っていてよかった。


咳も苦しい。
昨日は咳なんて出てなかったのに。
喉痛いのにカラオケで6時間も熱唱してたのがいけなかったのか?ちくしょう!
それに、咳する度に膀胱が揺れて、お漏らしをしそうだ。ったくふざけやがって。


頭も若干痛いな。ほんの一時間くらい前からだ。あーくらくらする。瞼が重い。身体が重い。


あー膀胱がピンチだ。トイレに行かなきゃいけないのに。
あー…めんどくせぇ。億劫だ。ブルーだ。何もしたくない。身体が動かない。


おれは今、大学の自習室にいる。
既に最終コマが始まっている時間だから人はまばらだ。
この時間に自習室にいる人間は、普通じゃない。
空きコマで暇だから、暖かい空間を求めて自習室に来るのはわかる。でも今は最終コマで、空きコマではない。授業はもうないんだから帰ればいいのだ。つまり、ここにいる人たちは何らかの事情で帰れない、帰りたくない、または自習室で漏らそうとしている、かのどれかだ。


自習室は個人ブース型になっていて、三方を壁に囲われている。勉強するのにも遊ぶのにもこれ以上の環境はない。人との関わりが発生しないのでかなり気楽でいられるし、何より性に合っている。


しかし、時にどうしようもない閉塞感に襲われる。なんでおれは勉強することもないのに自習室にいるんだろう。想像してた大学生活ってこんなんだったっけ。漏らしそうになりながらぼんやり壁を見つめるのが大学生活なら、さっさと退学したい。



トイレに行かないのは単に面倒だからというのもあるが、幾分気分が紛れるからでもある。今のおれの脳内はトイレのことでいっぱいだ。そう、体調が芳しくないことなど忘れるほどに。風邪による喉や頭や体の苦しみは、膀胱が一身に引き受けてくれているのだ。


風邪…?


このおれが?


風邪なんて何年ひいてないだろう。
意外に思われるだろうが、おれは稀に見る健康体だ。インフルエンザにかかったこともない。そんなおれが、風邪?
しかし、頭痛、鼻水、咳、喉の痛みとコンボが続けば認めざるを得ない。


と、思考が止まる。
タイムアップだ。ゲームオーバーでもある。
暇つぶしはおしまいだ。
勿論、尿意との戦いも。


寒いな。
立ち上がる。
濡れたズボンを叩いて、風のように走り出した。